9歳で父は家を出て行った
直前にたった一度のサイクリング
父が見つけてくれたのは
手のひらサイズの繭型の
つるっと紫あけびの実
自転車のかごに大切に
お家に帰って食べようと
そしたら
自転車の揺れのせい
熟れたあけびは開いてしまい
中身が落ちて無かったの
9歳だった私には
まわらぬ知恵のいきさつで、、、
秋の東北
旅館の前にたつ市で
あの懐かしい楕円体
紫色のつるっとが
笊に並んで待っていた
半世紀後の再会に
よう、懐かしい
あなたは中身付きなのね
しめたと買って旅館に帰り
どれどれお味はどうなのよ
ぷにゅぷにゅゼリーの半透明
中に透けてる黒い種
口の中には曖昧な
甘さが少し広がった
食べるというより
味わうだけの
口中さまようぷにゅぷにゅは
父の記憶に似た様な
曖昧模糊な味だった